NTTの2024年度第1四半期決算分析とSWOT分析

2024年8月7日

NTTグループは、日本最大の通信事業者であり、その中核を担うNTTドコモは、国内のモバイル通信市場で強力なシェアを持っています。近年、通信業界は5G技術の普及やデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進といった急速な技術革新の波にさらされており、NTTもその影響を強く受けています。

2024年度第1四半期をベースに分析した結果を表します。世界経済が不安定な状況下で、NTTグループは厳しい経済環境の中で持続的な成長を模索しています。本記事では、この四半期におけるNTTグループとNTTドコモの業績を詳細に分析し、短期、中期、長期でNTTの株が買いか分析します。

内容

NTTグループとNTTドコモの2024年度第1四半期決算は、収益は安定するも、利益は減少
短期評価: 競争激化やコスト増で、慎重な姿勢が求められ、中立
中期評価: 5GとDXの推進が成長を促進する可能性があり、買い
長期評価: 技術力とインフラに基づく強固な成長が期待され、強く買い
総合的には、長期的視野で積極的な投資が良いのではないか。

はじめに

NTTグループは、国内外で多岐にわたる事業を展開しており、その中でもICT事業、地域通信事業、グローバル・ソリューション事業が主な収益源となっています。一方、NTTドコモは、モバイル通信サービスを中心に収益を上げており、5Gの普及に伴う新規事業の展開が注目されています。

本記事では、NTTグループとNTTドコモの2024年度第1四半期の業績を基に、SWOT分析とクロスSWOT分析を実施し、現状の戦略の評価を行います。また、短期、中期、長期の観点から、株式市場での投資判断を提示します。

NTTグループの2024年度第1四半期決算ハイライト

主要財務指標

NTTグループの2024年度第1四半期の連結経営成績は、前年同期比で4.1%増の3兆2,400億円の営業収益を記録しましたが、営業利益は8.2%減の4,358億円となりました。税引前利益は25.7%減の4,293億円、当社に帰属する四半期利益は27.0%減の2,741億円でした​。

セグメント別業績

  1. 総合ICT事業
    総合ICT事業は、売上高1兆4,830億円(前年同期比2.2%増)、セグメント利益は2,753億円(前年同期比5.9%減)と、依然としてNTTの主要収益源であり続けています。
  2. 地域通信事業
    地域通信事業の売上高は7,389億円(前年同期比2.1%減)、セグメント利益は916億円(前年同期比17.8%減)と低調でした。
  3. グローバル・ソリューション事業
    グローバル・ソリューション事業の売上高は1兆1,210億円(前年同期比9.6%増)と好調でしたが、セグメント利益は586億円(前年同期比0.5%増)と、利益面での伸びは限定的でした。

前期比および過去四半期との比較

営業収益は増加したものの、営業利益および四半期利益は前年同期を下回りました。これは、国内市場の競争激化および原材料コストの上昇によるコスト増が影響したためと考えられます。

NTTドコモグループの2024年度第1四半期決算分析

通信サービスの収益詳細

NTTドコモグループの2024年度第1四半期における通信サービス収益は、8,376億円で、前年同期比で約3.1%減少しました。特に、モバイル通信サービス収入が6,209億円(前年同期比2.4%減)と減少しており、競争の激化や料金引き下げの影響が現れています。一方、固定通信サービスおよびその他の通信サービスの収入は2,167億円となり、こちらも前年同期比で4.8%の減少を記録しています​。

端末機器販売とシステムインテグレーションサービスの動向

端末機器販売は、前年同期比で6.1%増の1,626億円となり、堅調な需要が見られました。新機種の投入とキャンペーンが奏功したと考えられます。システムインテグレーションサービスの収入は1,495億円と、前年同期とほぼ同水準で推移しましたが、市場の成熟や競争環境の厳しさが一因となっているようです。

NTTドコモの財務状況と資本効率の分析

NTTドコモグループの2024年度第1四半期末における財政状態を分析すると、総資産は約1兆933億円で、前期末から約9,100億円減少しています。これは、特に流動資産の減少(前年同期比約17%減)に起因しており、現金及び現金同等物も約67%減少しました​。

資本効率の観点では、NTTドコモの営業利益率は前年同期比で低下しており、資本の効率的な活用が課題となっています。特に、資産の効率的運用が求められる状況です。

財務状況とキャッシュフロー

NTTグループの財務状況

NTTグループの2024年度第1四半期末における総資産は約29兆9,894億円で、前期末から約3,851億円増加しました。流動資産はわずかな増加にとどまりましたが、非流動資産が強化され、資産全体としては安定的な成長が見られます​。

負債面では、流動負債が約8兆9,489億円、非流動負債が約9兆9,720億円となり、前期末に比べて負債全体が約2,096億円増加しました。これは、短期借入金および長期借入金の増加が主な要因です。また、NTTグループの株主資本は前期末比で約1.2%増加しており、総資本に占める株主資本の割合もわずかに上昇しています​。

NTTドコモの財務状況

NTTドコモの財務状況では、総資産が約1兆933億円に減少していることが注目されます。特に流動資産の減少が顕著であり、現金及び現金同等物は約67%減少し、期末残高は約368億円となっています​。この大幅な減少は、営業活動や投資活動におけるキャッシュフローのマイナス影響が反映されていると考えられます。

キャッシュフローの分析

NTTグループの営業活動によるキャッシュフローは、前年同期の約3,409億円から約1,951億円へと大幅に減少しました。この減少は、営業債権およびその他の債権の増加および法人税等の支払額の増加によるものです​。

投資活動によるキャッシュフローも、前年同期比で大きくマイナスとなり、約4,508億円の支出超過となりました。これは、有形固定資産および無形資産への投資が増加したためです。一方で、財務活動によるキャッシュフローはプラスであり、短期および長期の借入金の増加が寄与しています​。

現金及び現金同等物の増減

NTTグループの現金及び現金同等物の期末残高は約1兆1,142億円であり、前年同期比で増加していますが、営業活動および投資活動によるキャッシュフローの大幅な減少が今後のキャッシュポジションに影響を与える可能性があります。一方、NTTドコモは現金及び現金同等物が大幅に減少しており、資金繰りや投資計画に慎重さが求められます​​。

市場環境と競争分析

国内およびグローバル経済の動向

2024年は、世界経済が複雑な課題に直面する中で進行しました。インフレの高止まりや金利上昇、そして地政学的リスクが経済活動に大きな影響を与えています。特に、日本経済においては、エネルギー価格の高騰や円安の影響が企業収益を圧迫しています。

通信業界では、5Gの導入が引き続き進行しており、デジタルトランスフォーメーション(DX)やIoT(モノのインターネット)の普及が加速しています。これにより、通信事業者は新たな収益源を模索しつつも、競争が激化する市場環境で持続的な成長を達成する必要に迫られています。

通信業界の競争環境と主要プレーヤーの動向

国内通信市場では、NTTグループが依然として強力なシェアを維持していますが、楽天モバイルやKDDI、ソフトバンクといった他の通信事業者が攻勢を強めています。特に、楽天モバイルの価格競争戦略は市場全体に影響を及ぼしており、NTTドコモも価格引き下げや顧客獲得のための戦略的投資を強いられています。

グローバル市場では、海外展開の難しさが課題となっている一方で、NTTグループは欧米市場でのシェア拡大に向けた動きを続けています。しかし、通信業界は各国で異なる規制環境に直面しており、これが海外事業の成長に対するハードルとなっています。

NTTの競争優位性とリスク評価

NTTグループは、国内市場での圧倒的なインフラと技術力、そして広範なサービス提供を強みとしています。これにより、安定した収益を確保しつつ、5GやIoTといった新興技術の導入にも積極的に取り組んでいます。

しかし、海外市場における規制リスクや、国内での価格競争の激化は、同社にとっての重要な課題です。これに加えて、NTTドコモにおける収益性の低下は、中長期的にグループ全体の収益構造に影響を及ぼす可能性があり、注意が必要です。

SWOT分析とクロスSWOT戦略評価

決算を含め、SWOT分析と今後の展望を考察します。

SWOT分析

  1. Strengths(強み)
    • 技術力とインフラの強さ: NTTグループは、日本国内で最も広範かつ高度な通信インフラを保有しており、特に5Gネットワークの展開において先行しています。技術力の高さは、サービスの信頼性と競争優位性を支えています。
    • ブランド力: NTTおよびNTTドコモは、日本国内で強固なブランドイメージを持ち、広範な顧客基盤を有しています。これは、顧客ロイヤルティの高さにもつながっています。
    • 多角的な事業展開: ICT事業、地域通信事業、グローバル・ソリューション事業と、多様な事業セグメントで収益を上げており、これによりリスク分散が図られています。
  2. Weaknesses(弱み)
    • 海外事業の課題: NTTは国内市場では強力ですが、海外展開においては規制や競争環境の違いから苦戦しています。特に、欧米市場での拡大には戦略的課題が残ります。
    • 価格競争の影響: 国内市場での価格競争が激化しており、特に楽天モバイルの低価格戦略がNTTドコモにプレッシャーを与えています。これにより、利益率の低下が懸念されます。
    • キャッシュフローの圧迫: 特にNTTドコモにおいて、キャッシュフローの減少が資金繰りや今後の投資計画に影響を与える可能性があります。
  3. Opportunities(機会)
    • 5GとDXの推進: 5Gの普及は、IoTやスマートシティなどの新たなサービス分野を創出し、NTTグループにとっての成長機会となります。また、DXの推進により、法人向けサービスの需要が高まることが予想されます。
    • 新規事業の開拓: エッジコンピューティングやAIサービスなどの新技術分野での事業拡大が期待され、これにより新しい収益源が確保される可能性があります。
  4. Threats(脅威)
    • 規制リスク: 国内外での規制強化や法的制約が、事業運営に影響を与えるリスクがあります。特に、データプライバシーやセキュリティに関する規制は、NTTグループの事業に大きな影響を及ぼす可能性があります。
    • 市場競争の激化: 新規参入者や既存競合他社の攻勢が市場競争をさらに激化させるリスクがあり、これにより収益性が圧迫される可能性があります。

クロスSWOT戦略評価

  1. SO戦略(強み×機会)
    • NTTグループは、強固なインフラと技術力を活かし、5GやDXの推進に注力することで、新たな収益機会を最大限に活用する戦略を採用しています。これにより、国内外の市場での競争力を強化し、新規事業領域での成長を目指しています。特に、法人向けサービスの拡充エッジコンピューティングの推進が、同社の成長を支える重要な要素となります。
  2. ST戦略(強み×脅威)
    • 強みを活かして、競争環境や規制リスクに対抗するため、NTTは技術革新を通じたコスト削減やサービスの差別化を図っています。特に、AIやビッグデータを活用した高度なサービス提供により、他社との差別化を進めています。また、規制リスクに対しては、コンプライアンス強化や柔軟な事業運営を通じて対応しています。
  3. WO戦略(弱み×機会)
    • 海外市場での課題を克服するため、NTTはパートナーシップや戦略的提携を活用し、海外展開を加速させています。また、低価格競争への対応として、新規事業分野での収益拡大を図り、価格競争からの脱却を目指しています。特に、グローバル・ソリューション事業の強化と、新興市場での事業拡大が鍵となります。
  4. WT戦略(弱み×脅威)
    • NTTは、リスク管理とキャッシュフローの改善に焦点を当てた戦略を採用しています。特に、コスト構造の見直しや効率化を進め、収益性の改善を図ることで、競争環境の悪化に備えています。また、慎重な投資判断と財務健全性の維持により、長期的な成長を確保しようとしています。

短期、中期、長期の投資評価

短期投資評価(3ヶ月~1年)

NTTグループとNTTドコモの2024年度第1四半期決算においては、収益が安定している一方で、営業利益と当期利益の減少が目立ちました。短期的には、競争の激化やコスト増加の影響が続くことが予想されるため、株価の上昇余地は限定的です。しかし、通信インフラの安定性と5Gサービスの拡大が下支えとなり、大幅な下落リスクも低いと見られます。

投資判断: 中立

中期投資評価(1~3年)

中期的には、NTTグループが進める5Gの展開とデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が、主要な成長ドライバーとなります。特に、法人向けのICTサービスやエッジコンピューティングの導入が進むことで、収益構造の多様化が期待されます。一方、国内市場における競争環境が依然として厳しく、価格圧力が続く可能性があるため、利益率の回復には時間がかかるかもしれません。

投資判断: 買い

長期投資評価(3年以上)

長期的には、NTTグループの強固な技術基盤と持続的なインフラ投資が、競争優位を確保し続けるでしょう。5Gのさらなる普及に伴い、IoT、スマートシティ、AIなどの新興技術を取り入れたサービスが拡大し、これがNTTグループの成長を後押しします。また、グローバル市場での展開が成功すれば、収益基盤がさらに強化される可能性があります。リスクとしては、規制強化や新規参入者による競争の激化が挙げられますが、NTTの規模と技術力を考慮すれば、これらを乗り越える可能性は高いです。

投資判断: 強く買い

9. 結論

NTTグループおよびNTTドコモは、短期的には厳しい競争環境に直面していますが、中長期的には成長の機会が多く見込まれます。5Gの展開やDXの推進、新技術の導入が同社の将来を支える重要な要素となり、特に長期においては強固な成長基盤を持つ企業であると言えるでしょう。

投資家は、短期的には慎重な姿勢が求められる一方で、中長期的には積極的にポジションを取ることが考えられます。市場の動向やNTTグループの戦略的進展を注視しつつ、長期的な視野での投資判断を行うことが重要です。

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